突然ですが、ワクチンについてのクイズです。
犬猫のワクチン接種において大切なのは。。。?(複数回答可)
1. 一頭でも多くの犬・猫にワクチン接種をすること (ワクチン接種率を高く保つこと)
2. 他の犬・猫のワクチン接種状況は各個体に関係ない (ワクチン接種率は気にしなくてよい)
3. 毎年しっかりとワクチン接種をすること(ワクチン接種頻度を高く保つこと)
4. 必要最低限の頻度でワクチンを接種すること (ワクチン接種頻度をできる限り低く保つこと)
答えは

1番と4番!
CONTENTS
そもそもワクチンって何?
ワクチンは細菌やウイルスなどの病原体を弱毒化・無毒化したもので、ワクチンを接種することにより体がその病原体と戦う方法を学習します。つまり、病気への免疫ができます。それにより、病原体が体内に侵入しても発症を予防したり、症状を軽度で抑えることが期待されます。
何のためにワクチン打つの?
ワクチンの目的は主に3つ
1. 感染・発症を防ぐ
2. 感染しても重症化を防ぐ
3. 流行を防ぐ・周囲の命を守る(集団免疫)
ワクチン接種率を高く保つことはなぜ大切?
これは、『流行を防ぐこと』と『周囲の命を守ること』に大きく関わってきます。どういうことかというと、、
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- ワクチン接種率が高い
- ↓
- 集団内に免疫を持つ個体が多い
- ↓
- 集団内に病原体との戦い方を知っている個体が多い
- ↓
- 病原体が攻撃してきても素早く撃退、被害を最小限に抑えることができる
- ↓
- 集団内で病気が拡大しない、病気そのものが少なくなる
- ↓
- ワクチン接種を受けていない個体(受けることができない個体)も病気に感染しにくくなる
- ↓
- 集団としての病気予防が成り立つ(集団免疫)
つまり、ワクチン接種率を高く保つことは、自分だけでなく周りの命も守るために大切なのです。
ワクチン接種頻度をできる限り低く保つことはなぜ大切?
ワクチンは犬猫を危険な病気から守るためには必要です。有益なものです。ですが、100%安全というわけではありません。稀にアナフィラキシーショックを起こす患者さんもいます。また、頻繁に打ちすぎることで免疫機能に悪影響を与える可能性も指摘されています。それに加え、最近の研究で個体差はあるものの、ワクチンの効果が従来考えられていたよりも長く持続するということがわかってきました。このような研究結果やデータを考慮に入れ、ワクチン接種頻度をできる限り低く保つことはワクチンによる副作用を最小限に抑えるために、安全に使用するために大切なことなのです。
『一頭でも多く、一回でも少なく』です。
どの頻度でワクチンを打てばいいの?
実は、犬猫のワクチン接種頻度については獣医師同士でもなかなか意見が一致しない問題です。時にはかなりヒートアップした議論に発展することも。。。
それもそのはず、ワクチン接種プログラムには『画一的・絶対的』な正解がないのです。
なぜかというと、、、
本来、ワクチンプログラムはその動物の健康状態、ワクチン履歴、生活スタイル、その地域の病気の発生状況などを考慮して個々にあったものを組み立てるべきだからです。
世界中全ての動物に当てはまるワクチンプログラムを作ることは不可能であり、存在しません。
とはいうものの、もちろん推薦されている基本的なガイドライン(方針)はあります。
世界中多くの獣医師が参考にしているガイドラインがこちら!
これはWorld Small Animal Veterinary Association (WSAVA: 世界小動物獣医師会)という世界最大級の獣医師団体のVaccination Guideline Group (VGG: ワクチネーションガイドライングル ープ) によって作成されたガイドライン。
このガイドラインは各国の獣医師たちに、最新の科学的アドバイスとワクチン接種に関する最良の概念を提供するために作られており、獣医師のための最強のワクチン参考書といったところです。
このガイドラインの中でワクチンは『コアワクチン』と『ノンコアワクチン』というように大きく2つに分けられています。
『コアワクチン』= 地理的要因や動物が置かれている状況にかかわらず、すべての犬と猫に接種すべきワクチン
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- 犬ジステンパーウイルス(CDV)
- 犬アデノウイルス(CAV)
- 犬パルボウイル ス2型(CPV-2)
- 猫汎白血球減少症ウイルス(FPV)
- 猫カリシウイルス (FCV)
- 猫ヘルペスウイルス I 型( (FHV-I)
- 狂犬病(*流行が認められる地域、法令により必要とされる(日本など)場合のみコアワクチンとみなす。それ以外の地域ではノンコア)
『ノンコアワクチン』 = 地理的要因、 地域環境、またはライフスタイルによって、 接種が必要か判断するべきワクチン
上記以外のワクチン
例)
- 犬パラインフルエンザ
- レプトスピラ
- 猫白血病ウイルス(FeLV)
など
そして、初年度ワクチン接種プログラムと最初の追加接種(通常26週齢〜初年度ワクチンの12ヶ月後に行われる)が完了した犬猫では長期間にわたりコアワクチンの免疫効果が持続することが指摘されており、それ以降は3年毎よりも頻回にコアワクチンを追加接種する必要はないとされています。
つまり、成犬・成猫*には3年に1度のコアワクチンを推奨しています。(*低リスクの猫のみ)
ノンコアワクチンの免疫持続期間は一般的には1年またはそれ以下であるので、ほとんどのノンコアワクチンは年に1回の接種が必要です。
コアワクチン、本当に3年に1回で大丈夫なの?
複数の研究・実験により、犬のコアワクチンの効果が3年以上維持することが知られています。場合によっては終生免疫持続することもあります。
近年では、ワクチンメーカーもこのような研究結果やワクチンの安全性について賢明に対応し、免疫持続期間が見直されるようになりました。実際にここ数年で免疫持続期間の長いワクチン(通常は3年)が多く認可されました。(ちなみに、ワクチンメーカーの示す免疫持続期間は実験的根拠に基づく最低限のものなので、実際の免疫持続期間はもっと長いと考えれられます。)
『3年毎』という期間は多くの犬に安全に受け入れられる期間だと考えられます。
ただ、ワクチンメーカーが1年毎の接種を推奨している場合、3年毎のワクチン接種は法的推奨から逸脱すること(「適用外使用」)になるので抵抗を感じる飼い主さんや獣医師も多いと思います。また、疫病の発生状況やワクチン接種率は国や地域によってばらつきがありますし、免疫持続期間に個人差があるのも事実なので、慎重にワクチン接種頻度を考慮することは大切なことです。
ワクチンの頻度を下げたいけど、愛犬をしっかり病気からは守りたい!そんな時に役に立つのが『抗体価の検査』です。抗体価検査をすることで客観的にワクチンの必要性を判断し、獣医しと相談して接種時期を決定することができます。ワクチン接種プログラムにおいて、最も理想的な方法ですね。
猫のコアワクチンについては、犬とは少し違うので注意が必要です。
猫のコアワクチンに含まれる汎白血球減少症ウイルスは犬のコアワクチン同様、長期間に渡り免疫持続期間が期待できることが確認されています。抗体価検査を使って免疫状態の確認をすることもできます。
ですが、猫カリシウイルスと猫ヘルペスウイルス に関しては、汎白血球減少症ウイルスほどの強固な防御や免疫持続期間を期待できないと言われています。また、猫カリシウイルスと猫ヘルペスウイルスの抗体応答を調べる検査はまだまだ発展途上で、これらに対する抗体価は、いずれも猫のワクチンによる免疫の確認に役立つとは思えないというのが現状です。
よって猫の場合、ワクチン接種プログラムは猫の生活環境によって『高リスク』『低リスク』に分けて考え、頻度を決定することが推薦されています。
『低リスク猫』= 完全室内飼い、キャットホテルなどの宿泊施設使用なし、1−2頭までの単頭・少数飼い
『高リスク猫』= 屋外アクセス有り、宿泊施設の利用有り、多頭飼い
というふうに、リスクアセスメントを行い、高リスクの猫に対しては年1回 の再接種を、低リスクの猫に対しては3年毎の再接種をすることが推奨されています。
イギリスで一般的なワクチン接種プログラムは?
成犬の場合、
- コアワクチン(DHP):3年毎(ほとんどのワクチンメーカーが3年毎のワクチン接種を認可・推奨しています)
- レプトスピラ (Lepto):1年毎(レプトスピラはイギリスではコアワクチンとして認識されています)
- ケンネルコフ(Bordetella + パラインフルエンザ):必要に応じて1年毎
- 狂犬病:国外へ旅行する犬に対してのみ3年毎
コアワクチンの接種頻度をさらに下げることを希望している場合、抗体価検査を利用してワクチン時期をさらにずらすことも可能です。
成猫の場合、上記で述べた通り、猫カリシウイルスと猫ヘルペスウイルスのワクチンは、他のコアワクチンほど強固な防御や免疫持続期間が期待できないという問題があります。また、イギリスの猫用ワクチンのほとんどが汎白血球減少症ウイルスに対しては3年の免疫持続期間を認可しているものの、猫カリシウイルス と猫ヘルペスウイルスに対しては1年の免疫持続期間しか認可していません。(今現在1社のみコアワクチン全てのウイルスに対して3年の免疫持続期間を認可しています)
結果、1年毎のコアワクチン接種がまだまだ一般的です。
RCP(コアワクチン全て)とRC(カリシ&ヘルペスウイルスのみ)のワクチンを組み合わせて『RCP – RC – RC – RCP – RC -…』といったワクチンプログラムを実施している病院もありますが、多くはありません。
WSAVAのワクチンガイドラインを元に、イギリスの獣医師向けに書かれたワクチンガイドラインがこちら→『 Small animal vaccination: a practical guide for vets in the UK (Michael J. Day)』
まとめ
- ワクチン接種は犬猫の健康を守るために必要である
- ワクチンを接種することは周りの動物を守ることにもつながる
- ワクチン接種頻度はできる限り少ない方が良い
- ワクチン接種の頻度を減らすために抗体価検査を活用すると良い(*猫のワクチンへの有用性は限られる)
- ワクチンガイドラインは基本方針であって、絶対に守らなければならないルールではない
- ワクチン接種プログラムは地域のワクチン接種率・疫病発生状態やペットのライフスタイルに合わせて獣医師と飼い主が相談しながら決めるべきである
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